『マーケットが変わる、転換するのは、中央銀行の金融政策』と言っても過言ではありません。現在の米国株式市場は短期的には非常に神経質な展開となっていますが、これも、マーケットに恩恵をもたらしきたFRB、米国中央銀行の政策に少し変化が現れてきためです。前回のテーパリングから始まるFRBの一連の動きを振り返り、今後を占ってみたいと思います。
非伝統的金融政策とは、
マーケット、金融、経済に関する用語は慣れていないと「どの国の言葉?」と思うほど独特の言い回しになることが多いです。もともと、英語から始まっていてそれを和訳すると、さらに難解??になってしまうこともあると思います。
何が伝統的ではないのか
中央銀行の金融政策は、通常は、市場でのオペレーション(資金の供給・吸収)を通じて、短期金利の誘導を目的として行われています。そのためこれらと違う手段や目的をもって実施される政策は「非伝統的」となります。
量的金融緩和政策
中央銀行が金利の引き下げではなく、国債等の買入れを増加することによって中央銀行の当座預金残高量を拡大させることで金融緩和を行うこと言います。金融機関に大量の資金供給をすることで、金融システム自体の不安を解消するばかりではなく、金融機関は中央銀行とのやりとりに余裕ができて、融資や証券投資にお金を回すことにつながります。
はじまりは、リーマンショック
あわせわざ
バーナンキFRB議長(当時=2006年~2014年2期8年務める)とFRBは、リーマンショックと呼ばれる金融危機、世界同時不況に際し、実質ゼロ金利政策に、3回にわたる量的緩和策をミックスした「非伝統的政策」を発動しました。
出来事/FOMC等 | FF金利の誘導目標等 | FRB議長 | |
2008年 | 9月 リーマン・ブラザーズ経営破綻 10月 世界同時大幅株安で米国経済に暗雲 | 12月 0.0-0.25%(過去最低) | バーナンキ |
2012年 | 1月 事実上のゼロ金利政策を継続 |
米国で2015年まで続くゼロ金利政策と同時に行われたのが量的緩和です。
米国のQE
QEは、Quantitative Easingの略で、量的緩和を指します。中央銀行が市場に大量に資金と供給することで、デフレからの脱却や景気を刺激することことを目的として行います。
- 2008年11月~2010年6月までが「QE1」=量的緩和第1弾
- 2010年11月~2011年6月までが「QE2」ー第2弾
- 2012年9月~2014年10月は「QE3」ー第3弾と呼ばれています。
世界経済、金融のリーダーである米国が行った、この実験的とも思われた非伝統的政策は、リーマンショックからの早期回復へと導きます。
米国株式市場の回復とその後
下記は、2007年からのS&P500指数の動きです。各年の12月の終値で単純なチャートになっていますが、2007年~2008年の下落、そこからの見事な回復がわかると思います。因みに、
- 安値は2009年3月6日の696.79ポイント、そこから、
- 2021年の昨年11月22日には、過去最高値4,743ポイントをつけています。
金融政策をノーマルな状態へ
リーマンショックによる、金融システム崩壊の危機という非常時に、経済を支えるために米国中央銀行であるFRBが金利をゼロ近辺までに引き下げ、膨大な資金を供給しましたが、雇用の回復、好調な企業業績と株式市場の回復、上昇など効果が確認できれば当然、金融政策も正常化に向けて動き出します。そこで行われたのが、まずは量的緩和の段階的縮小(買入れる債券などの資産の量を少しずつ減らしていく)テーパリング(=Tapering )でした。
- テーパリングの実施、完了(2014/1月~2014/10月-Q3による新たな資産買入を終了。)
- 利上げ、追加利上げ
出来事/FOMC | FF金利の誘導目標等 | FRB議長 | |
2015年 | 12月 2008年12月以来の事実上のゼロ金利政策を解除 | 12月 0.25-0.50%に引き上げ | イエレン |
~2018年 | 12月まで連続の利上げを行う | 12月 2.25%~2.50%まで |
イエレン議長(2014-2018年議長/現在の米財務長官,初の女性FRB議長、初の女性財務長官)が本格的にFRBの資産圧縮に舵を取ったのは、利上げ後の2017年以降のことでした。
テーパリング以降のFRBの金融政策は、
2014年1月から2017年10月にかけての、テーパリングから利上げ、そして資産縮小までの流れです。量的緩和=FRBの資産が増えることを意味します。4.5兆ドルほどまでに増えていたFRB資産はその水準に抑えながらも、2017年の縮小開始へと進んでいきます。ところが・・・
※単位は、1000億ドル。40は、4.0兆ドル。現在は大体、8.7兆ドルぐらいです。↑
再び非伝統的金融政策!?
米中貿易摩擦も深刻に・・・
FRBの資産、バランスシートは縮小されるも、2018年10月〜12月にかけての株価急落、マーケットの変調を受けて(この時は、米中貿易摩擦の長期リスクや利上げ局面であったことも影響していたと思います。) 毎月の縮小ペースを鈍化させる方向にそして、2019年には縮小終了の時期を前倒しで行う(再び資産増加のきざし?)ことが、FOMCの方針となっていきます。また、連続していた利上げも据え置き、様子見へとなります。
出来事/FOMC | FF金利の誘導目標等 | FRB議長 | |
~2018年 | 12月まで連続の利上げを行う | 12月 2.25%~2.50%まで | |
2019年 | 1月~3月 FF金利誘導目標を据え置く | 3月 2.25%~2.50%に据え置き | パウエル |
未知のウィルス
そこへ、新型コロナウィルスの感染拡大です。資産の縮小、縮小停止から、再び、拡大へとFRBは舵を取らざるをえなくなります。金利も据え置きから、連続の引き下げへとつながっていきます。
出来事/FOMC | FF金利の誘導目標等 | FRB議長 | |
2019年 | 7月 金利引き下げへ | 7月 2.00%~2.25%まで | パウエル |
9月,10月 連続引き下げ | 9月 1.75%~2.00% ,10月1.50%~1.75%へ | ||
12月 維持 | 12月1.50%~1.75%を据え置き | ||
2020年 | 1月 | 1月1.50%~1.75% 変わらず | |
3月3日 臨時会合 ▼0.5%の引き下げへ | 3月1.00%~1.25% | ||
3月15日再び臨時会合▼1.00%の引き下げ | 0.00%~0.25%へ |
2月28日に追加利下げを示唆する緊急声明文を出していたFRBは、矢継ぎ早にFOMCの臨時会合を開き、パウエル議長が
- 「経済見通しに対する新たなリスクに直面する中で、米国経済を力強く保つための措置」-3月3日
- 政策当局者はあらゆるツールで経済を支える-3月15日
と述べており、未知のウィルスの感染拡大への経済、金融面での対策がいかに、緊急ものであったかが伺えます。
②へ続きます。
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