*10-12月期の決算では、中国経済の低迷と競合他社の挑戦に直面しながらも、北米とヨーロッパでの好調な業績がアップルを支えていることを示し、インドシフトへの布石も着々と進められています。「Vision Pro」に期待が集まります。
最新決算と今後の業績見通し。アップルの抱えるリスクと次のグーローバル戦略
*アップルの決算はカレンダー通りの1月から12月までの12月決算が多い他の米国企業とは異なり1年を通じての決算は9月。10月から12月が第1四半期(Q1)、第2四半期1月-3月(Q2)、第3四半期4月-6月(Q3)、第4四半期7月-9月(Q4)。例年9月、10月に新製品を発表し、クリスマス商戦で弾みをつけスタートダッシュをかける企業戦略があるようです。
決算のポイント
- 売上高は、1,196億ドルで5四半期ぶりの前年同期比でプラス、EPSは2.18ドルで過去最高
- サービスは過去最高の231億ドル(同+11.3%)の売上を記録
- 中国、大中華圏の落ち込みを他地域でカバー
- アップル製のデバイスの全世界稼働台数(インストールベース)で22億台に
決算の概要
10-12月/Q1,2024 | 10-12月/Q1,2023 | 前年同期比 | |
売上高 | 119,575 | 117,154 | +2.1% |
営業利益 | 40,373 | 36,016 | +12.1% |
当期利益 | 33,916 | 29,998 | +13.1% |
EPS | 2.18 | 1.88 | +16% |
- 売上高1,196億ドルで5四半期ぶりの前年同期比増収に。(前年同期は営業日数が1週間多かった)
- EPSは前年同期比16%増の2.18ドルで過去最高を更新。
- iPhoneの売上は697億ドル(前年同期比+6.1%増)
- サービスは過去最高の231億ドル(同+11.3%)の売上を記録
- 地域別売上は大中華圏が13%減少し市場予想を下回るも米州、欧州、日本、その他アジア太平洋の増収でカバー。
- (コロナ禍の供給制限の反動増もあり)iPhone売上は前年同期比6%増加し、前四半期の3%増から増収率が加速。
- 中南米、西欧、中東、韓国で過去最高売上。為替の影響を除く中国のiPhone売上も一桁台半ばの減少に。
- 同社デバイスの全世界稼働台数(インストールベース)が22億台へ。
- サービス収入は前年同期比+11%増で過去最高。営業日数の影響を除けば前四半期から増収率が加速。
- 続くQ2はiPhone売上および全体の売上は前年同期並み予想。
- 粗利益率「46-47%」を計画し、Q1実績からの改善を見込む。
*決算↑及びグラフのデータ↓はすべてアップルのIRより。
地域別売上
*パイチャートにカーソルを合わせると、地域の売上高がわかります。単位百万ドル
製品別とサービス
*パイチャートにカーソルを合わせると、製品別の売上高がわかります。単位百万ドル
*チャートにカーソルを合わせると、株価がわかります。単位ドル。
株価は決算発表(2/1)後は、中国リスクを懸念し?弱含みで推移しているように思えます。
トップのコメント
“本日、AppleはiPhoneの売上好調により10~12月期の増収を達成し、サービス事業の売上で過去最高を達成したことを報告します。当社のアクティブデバイスのインストールベースは現在22億台を超え、すべての製品と地域セグメントで過去最高となったことを報告できることを嬉しく思います。明日、Apple Vision Proの驚くような体験が始まる中で、当社の価値観に忠実に、そして、お客様を第一に、これまで通り画期的なイノベーションの追求に取り組んでいきます。”
-AppleのCEO(最高経営責任者)、ティム・クック
“10~12月期の売上高と利益の拡大により、過去最高となる2.18ドルのEPSを記録し、前年同期比では16パーセント増加しています。当四半期、当社の営業キャッシュフローは約400億ドルとなり、270億ドル近くを株主に還元しました。私たちは当社の将来を確信しており、当社の長期成長プランを支援するために、事業全体で重要な投資を継続していきます。”
-AppleのCFO(最高財務責任者)、ルカ・マエストリ
DeepLで翻訳しています。
- 売上高は、1,120億ドルで5四半期ぶりの前年同期比でプラス、EPSは2.18ドルで過去最高。
- サービスは過去最高の231億ドル(同+11.3%)の売上を記録
- 中国、大中華圏の落ち込みを他地域でカバー。
- アップル製のデバイスの全世界稼働台数(インストールベース)で22億台に
中国リスク以外に抱えるアップルのリスク
アップルのサービス部門はアップルにとって重要な成長領域であり、粗利益率がハードウェア部門を大きく上回ります。その中でもAppStoreは安定的な収益源で、iPhone等の製品との相乗効果で大きな力を発揮します。そのApp Storeに難題が・・・・
エピック対アップル
訴訟の背景:アップルは、App Storeを通じたデジタル商品・サービスの販売において、開発者から最大30%の手数料を徴収しています。エピックゲームズは人気ゲーム「フォートナイト」の開発者として、この手数料政策に疑問を投げかけ、2020年8月に外部決済システムを導入しました。これに対して、Appleは規約違反としてEpic GamesのApp Storeにおけるアカウントを抹消。これによりエピックゲームズはアップルを提訴し、アップルはこれを反訴していました。
- 連邦高裁の判決:2023年4月の一審の判決では、Epic GamesはFortniteで外部決済を導入した時に稼いだ1,200万ドルの30%をAppleに支払うよう指示され、Appleは規約を変更して外部決済を可能にするように指示されました。
- 上訴:この判決に対して、Epic GamesはAppleが独占禁止法に違反していると主張して上訴しました。同時に、Appleも外部決済に関するApp Store規約の変更を不服として上訴しました。
- 最高裁による上訴の退けられる:2024年1月、アップルとエピックゲームズの双方がこの判決に不服として最高裁に上訴しましたが、最高裁は説明なしにどちらの上訴も退けました。
- 影響:最高裁による上訴の退けられることで、連邦高裁の判決が有効になり、数十億ドルに上るアップルの売上高に影響が及ぶ可能性が高くなりました。一方、iPhoneユーザーは外部システムを通じてより安価にアプリを購入できるようになる可能性があります。
AI技術対応に遅れ?
スティーブ・ジョブズの創業以来の数々の革新を遂げてきたアップルですが、AIの分野に対しては、ハードがメインの企業として、マイクロソフトやグーグル、アマゾンの他のビッグテックとは単純に比較はできませんが、AI分野においアップルらしさが発揮できていません。
2月のARヘッドセット『Apple Vision Pro』は売り出しこそ好調ですが、年内出荷台数50万台の達成には、疑問符を投げかけるアナリストもいます。
「チャイナ・プラス・ワン」のグローバル戦略で、インドシフトを加速へ
最新決算で浮き彫りになった、中国リスク
10-12月期において、*大中華圏(Greater China)の売上は前年比で▼13%。やはり中国本土での、パンデミック後の消費者の慎重な姿勢と不動産市場の混迷に伴う、経済成長の鈍化の影響が大きいと思われます。さらには米中間の緊張が高まる中、中国消費者の国内ブランドへのシフトが加速、ファーウェイ製の「Mate 60 Pro」が中国で大成功を収めるなど、アップルiPhoneにとって厳しい環境にあります。
米国の制裁が中国への5G半導体を入手困難にし、アップルに競争優位をもたらす時期もありましたが、ファーウェイは自社で5Gチップを開発し、中国のSMICが製造。またXiaomiやOppoなどの中国企業が低価格スマートフォンを市場に投入し、競争の激化が続いています。
アップルはMacからiPhone、その付属品に至るまで最先端のサプライチェーンのほぼ全てを、中国で作り上げ、販売市場としも大きな可能性をもつマーケットとして中国は存在していましたが、安全保障上のリスクに経済の急速な鈍化という大きな負の要因が加わる状況に現在、アップルと中国はあります。
インドシフトを加速、他のグローバル企業の先駆けに!?
アップルは、中国政府が職員に外国製デバイスの使用禁止を命じたことに対応、安全保障上の面からのインドへの生産・販売シフトを加速しています。
現在、世界で最も人口が多い国となったインドは、Appleにとって莫大な市場ポテンシャルを提供していると言ってよいでしょう。特に同社の製品にとって重要な人口層、つまり大規模で成長している中間層を考えると、そのポテンシャルは計り知れません。
インドのスマホ平均価格は206ドル。iPhoneは898ドルと高い価格ですが、製造拡大により価格の低下が期待され、市場シェア拡大の余地があると考えられます。またインドは世界第2位のスマホ市場で、スマホ普及率は50%未満と、成長潜在力が大きいことも十分な魅力です。
2023年第2四半期のiPhone出荷台数は前年比9.3%減と過去最大の減少を記録したとき、インドでは販売が50%増と著しい成長を見せ、国別で世界トップ5入りを果たしました。
中国の成長鈍化や地政学的リスク増加を背景に、アップルは「チャイナ・プラス・ワン」戦略でインドへのシフトを進め、他のグローバル企業の先駆けとなるべく、邁進しています。
アップルの「チャイナ・プラス・ワン」戦略の概要をまとめますと、
- 多様化の推進: Appleは、米中貿易緊張を背景に、製造と市場の存在感を中国以外にも拡大することを目指す。インドを含む他の国々への生産活動の移転が進む。
- インド市場の潜在力: 人口の規模と成長している中間層を背景に、インドはAppleにとって巨大な市場ポテンシャルを持ち、これを活かすため、Appleはインドでの販売および製造の足場を急速に拡大。
- 小売の拡大と製造の移転: インドでの直営小売店の開設を通じて、ブランドプレゼンスと顧客体験を強化し、市場での成長を加速。また、インドでのiPhoneの生産を増やし、中国からの依存度を下げる。
- 政府のインセンティブと課題: インド政府は「メイク・イン・インディア」イニシアチブを通じて製造業を促進しており、アップルはこれを活用。
アップルのインドでの取り組みは、グローバルな製造と市場の多様化戦略の一環として、中国との貿易リスクを軽減し、成長するインド市場を最大限に活用することを目指していますが、複雑な規制環境や発展途上のインフラが課題となる可能性も指摘されています。
カーボン・ニュートラルの取り組みでも世界をリード
2030年までに
アップルは2020年以降、企業としてカーボンニュートラルを達成していますが、2030年まではアップルのグローバルサプライチェーンをカーボンニュートラルにする取り組みを続けています。
カーボン・ニュートラルとは
国内外で多発する様々な気象災害。温暖化と気候変動の関係を100%と証明するのは難しいですが、世界はその対策に大きく舵を取っています。2015年にパリ協定の採択によって、
世界共通の目標として世界的な平均気温上昇を工業化以前(1850~1900年)に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)。今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成する。
この実現に向けて世界が取り組みを進めており、120以上の国と地域が『2050年カーボンニュートラル』という目標を掲げています。日本においても、2020年10月政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、カーボンンニュートラルを目指すことを宣言しました。『排出を全体としてゼロ』というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて合計を実質ゼロにすることを意味します。
アップルのカーボンニュートラルについてはこちら↓
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