今回のFOMCでFRBは、雇用の増加と低失業率を背景に経済活動が堅調に拡大しているはいるが、一方で、インフレ率は緩和傾向とはいえ、依然として高水準にあるとしています。このブログでは、経済見通しの不透明さの中、最大限の雇用と目標インフレ率2%を達成するためにFRBが取り組んでいる金融政策の方針と、今後の経済活動への影響について解説します。また、FRBについても深堀します。
経済活動の現状:雇用増加とインフレ率の動向
FRBのFOMCでの声明
Federal Reserve issues FOMC statement
最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆している。雇用の増加は力強く、失業率は低水準を維持している。インフレ率はこの1年で緩和したが、依然高水準にある。
当委員会は、長期的には最大限の雇用とインフレ率2%の達成を目指している。委員会は、雇用とインフレの目標達成に対するリスクは、より良いバランスに移行しつつあると判断している。経済見通しは不透明であり、委員会は引き続きインフレ・リスクに細心の注意を払っている。
その目標を支えるため、委員会はフェデラルファンド金利の目標レンジを5.25~5.50%に維持することを決定した。フェデラルファンド金利の目標レンジの調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する。当委員会は、インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで
目標レンジを引き下げることは適切ではないと考えている。さらに委員会は、以前に発表した計画に記載されているように、財務省証券、政府機関債および政府機関モーゲージ担保証券の保有残高を引き続き削減する。委員会は、インフレ率を2%の目標に戻すことに強くコミットしている。
金融政策の適切なスタンスを評価する上で、当委員会は経済見通しに関する情報の影響を引き続き監視する。委員会は、委員会の目標達成を妨げる可能性のあるリスクが出現した場合、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある。委員会の評価は、労働市場の状況、インフレ圧力とインフレ期待、金融および国際情勢に関する読みなど、幅広い情報を考慮に入れる。
金融政策決定に賛成したのは、ジェローム・H・パウエル議長、ジョン・C・ウィリアムズ副議長、トーマス・I・バーキン、マイケル・S・バー、ラファエル・W・ボスティック、ミシェル・W・ボウマン、リサ・D・クック、メアリー・C・デイリー、フィリップ・N・ジェファーソン、アドリアナ・D・クグラー、ロレッタ・J・メスター、クリストファー・J・ウォラーの各氏-DeepLで翻訳しています。
今回のFOMCで押さえておきたい3つのポイント
次回5月も金利据え置きが有力視されていましたが、この声明でも5月利下げを示唆する文言はありません。市場は6月以降の利下げの可能性を探ることになります。
- 政策金利の目標レンジを5.25~5.50%に維持することを決定。5月の据え置きも有力。
- リセッション(景気後退)を回避して、ソフトランディング(軟着陸)を達成できる自信を深めているFRB
- 年内に3回の利下げを見込むFRBと市場の見方は一致、今後の安心材料としてプラスに働くとの観測も。
6月以降の利下げの可能性を探る
5月も政策金利は据え置きされる可能性も高く、パウエル議長は会見後の「5月や6月のFOMCまでに、利下げを判断するデータがそろう可能性があるか?」という質問に対し、『会合ごとに決定している。本日の会合は、今後の会合について決めたわけではない。
新たに入ってくるデータとリスクを継続的に評価するし、今後の会合について本当に何も決めていない』として、従来通りのスタンスで、今回のFOMCを無難に乗り切った印象です。マーケットにインパクトを与える決め事に対し、断定的な発言をするはずもなく、こちらもいつもどおりと言えます。
これまでの伝統を引き継ぐ、市場との対話を心得た、FRB議長の面目躍如です。
GDPの成長率を上方修正の意味は
注目された経済予想サマリー(SEP)については、「実質GDPの2024年だけではなく、25年、26年についても、GDP(国内総生産)を上方修正している点と、FFレートの長期見通しを昨年12月時点の2.5%から2.6%へと引き上げていることを考えると、FRBはリセッション(景気後退)を回避してソフトランディング(軟着陸)を達成できる、
つまりインフレをうまく抑えながら、経済もそこそこいい状態にすることに自信を深めているのではとする、一部アナリストの意見がありました。インフレを抑えることを優先するか、景気を落ち込まないようにするのが大事だとジレンマを抱えていた、少し前のFRBとはいつの間にか変わってきているように個人的は思えます。
四半期ごとに発表されるSEP(経済予測の概要)
Summary of Economic Projection、SEPは今回のFOMCには、以下のように説明されています。
経済予測の概要
2024年3月19~20日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)会合に合わせ、会合参加者は、2024年から2026年までの各年および長期的な実質国内総生産(GDP)成長率、失業率、インフレ率について、最も可能性の高い結果
の予測を提出した。各参加者の予測は、会合時点で入手可能な情報に加え、適切な金融政策(フェデラルファンド金利のパス”概念図、方向性”とその長期的な値を含む)に対する評価、および経済結果に影響を与える可能性の高いその他の要因に関する仮定に基づいている。長期予測は、適切な金融政策の下で、経済にさらなるショックがない場合に、各変数が時間ととも
に収束すると予想される値に関する各参加者の評価を表している。「適切な金融政策」とは、最大限の雇用と物価の安定を促進するという法定マンデートの各自の解釈を最もよく満たす経済活動とインフレの結果を促進する可能性が最も高いと各参加者が考える将来の政策の道筋と定義される。-DeepLで翻訳しています。
↑表題には、Table1としては米連邦準備制度理事会(FRB)理事および連邦準備銀行総裁の経済予測(適切な金融政策の予測に関するそれぞれの仮定の下、2024年3月とあります。
FOMCとは、
“Federal Open Market Committee”は、米国の連邦準備制度(FRS)の構成機関の一つで、金融政策の 最高意志決定会合を言います。FOMCのメンバーは12人からなり、FRBの7人の理事とニューヨーク連銀の総裁は常任委員で、残りの4人は地区連銀総裁が持ち回りをします。(ニューヨーク連銀総裁以外は、4つのグループ(1)ボストン、フィラデルフィア、リッチモンド(2)クリーブランド、シカゴ、(3)アトランタ、セントルイス、ダラス、(4)ミネアポリス、カンザスシティ、サンフランシスコから1年交替)。
FOMCは、定期的には約6週間ごと、年8回(火曜、水曜日)開催され、また、必要に応じて(金融危機の場合など)臨時開催されることもあります。
これまでのFOMCは
2022年に入ってからの急激なインフレに対し、FRBは、累計5%にも及ぶ、10回連続の利上げ(🟧の政策金利、FFレート)を実行しました。その効果もあり米国のインフレ率(🟦CPI消費者物価指数と🟥コアPCEデフレーター)は、グラフのように落ち着いてきています。*政策金利は誘導上限、2024年3月まで。CPIは2月、コアPCEデフレーターは1月まで。
*チャートにカーソルを合わせるとそれぞれの数字がわかります。
下記の表からは、ゼロ金利政策解除後の、利上げのタイミングとペースがわかります。
FOMC開催月 | 幅 | 政策金利(*FFレートの目標誘導レンジ) |
2020.4~2022.1月 | 変更なし | 0.00~0.25% |
2022.3月【ゼロ金利政策解除】 1 | +0.25% | 0.25~0.50% |
5月 2 | +0.50% | 0.75~1.00% |
6月 3 | +0.75% | 1.50~1.75% |
7月 4 | +0.75% | 2.25~2.50% |
9月 5 | +0.75% | 3.00~3.25% |
11月 6 | +0.75% | 3.75~4.00% |
12月 7 | +0.5% | 4.25~4.50% |
2023.1月 8 | +0.25% | 4.50~4.75% |
3月 9 | +0.25% | 4.75~5.00% |
5月 10 | +0.25% | 5.00~5.25% |
6月 | 据え置き | 5.00-5.25% |
7月 | +0.25% | 5.25-5.50% |
9月 | 据え置き | 5.25-5.50% |
10月/11月 | 据え置き | 5.25-5.50% |
12月 | 据え置き | 5.25-5.50% |
2024.1月 | 据え置き | 5.25-5.50% |
3月 | 据え置き | 5.25-5.50%←現在の水準 |
今後のFOMCスケジュール
*11月(水、木)以外はいずれも火曜日と水曜日
月 | 日 |
4月 | 30日-5/1日 |
6月 | 11-12日 |
7月 | 30-31日 |
9月 | 17-18日 |
11月 | 6-7日 |
12月 | 17-18日 |
FRBとは米国の金融政策を担う中央銀行に相当する組織
世界で一番影響力のある組織
米国の中央銀行システムは、一般的に連邦準備制度と呼ばれ、そのFederalの部分を略してフェッド(Fed)やFRSとも称されます。このシステムは、連邦準備理事会(FRB:Federal Reserve Board)、連邦公開市場委員会
(FOMC:Federal Open Market Committee)、そして全米12地区に分布する連邦準備銀行(FRB:Federal Reserve Banks)の三つの主要構成要素から成り立っています。
- 連邦準備理事会(FRB)は、日本の中央銀行である日本銀行に匹敵し、フェッドの中核機関として機能します。これは、米国内の金融政策の立案及び実行を担い、加えて各地区の連邦準備銀行(FRB)の監督を行います。
- 連邦公開市場委員会(FOMC)は、日本の金融政策決定会合に類似し、連邦準備理事会(FRB)が定期的に開催する会合で、FFレートの目標設定を含む公開市場操作の方針を決めます。
- 最後に、連邦準備銀行(FRB)は連邦準備理事会(FRB)の指示の下で動き、確定された金融政策の実行や、米ドル紙幣(連邦準備券)の発行等を担当します。-野村證券証券用語解説集『Fed』より
日本では米国の中央銀行を示す用語としFRBや中央銀行機能の総称であるFederal Reserve Systemの頭文字3文字を略称としたFed(フェッド)も特段区別なく使われているようです。
2つのマンデート(責務)
FRB( Federal Reserve Board)は、各国の中央銀行と同じく金融政策を狙う組織として存在しますが、FRBの金融政策運営のユニークな点として、2つの責務(デュアル・マンデート:dual mandate)が課せられている点があげられます。
これは、各国の中央銀行が主に、「物価の安定(stable prices)」を一義的責務を担うのに対し、FRBにはもう1つ「雇用の最大化(maximum employment)」という責務があることを意味します。パウエル議長のFOMC後会見等でも常にこの2つの責務に対する部分が重要視されていることからも明らかだと思います。
FRBは1913年に発足しましたが、FRBの設立を規定している連邦準備法(1913年~)には、当初、雇用の最大化や物価の安定というマクロ経済を安定化させる目的などは明記されてはいませんでした。
1977年の法改正に、適度な長期金利:moderate long-term interest ratesは、物価目標の達成に伴い実現されるとあります。*それぞれのマンデートが定められた歴史的背景を振り返る
と、20世紀の半ばから後半にかけ米国が経験した2つの戦争とその後の不況((1)第2次世界大戦後の世界的不況による雇用の悪化(2)ベトナム戦争の泥沼化と戦費膨張による長期の高インフレ)が関わったものと思われます。
*参考:大臣官房総合政策課海外経済調査係長 金城 貴祐氏ファイナンス 2020 Dec.コラム『海外経済の潮流Fedの長期目標と金融政策戦略』より
あまりに個性的で天才すぎる歴代のFRB議長達
世界経済の舵取りは、世界一の経済大国のアメリカの中央銀行、FRBに任せられていると言っても過言ではありません。FRBが主導する、FOMCに毎回世界中から、熱い視線が送られるのも納得がいきます。そんなFRBを統括するのが議長です。米国大統領以上に、影響力を持つともいわれています。
過去45年間の歴代議長を振り返ります。
ポール・ヴォルカー(Paul Volcker/1979年-1987年)
- インフレの抑制を目指し、高金利政策を実施。そのため、金利の急上昇「ヴォルカー・ショック」も招く。
- ボルカーの政策は、最終的にインフレーション率の低下に貢献し、経済の安定化に寄与。
- インフレファイターの異名を持つ
アラン・グリーンスパン(Alan Greenspan/1987年-2006年)
- 長期間にわたりFRB議長を務め、多大な影響力を市場に及ぼす。
- ドットコム・バブルやサブプライムローン危機時の議長。
- 金融政策を見事に指揮し、米国経済を舵取りする能力が評価され『マエストロ』の称号も。
- 一方、彼の政策が後のドットコムバブルやサブプライムモーゲージ危機を含む問題の一因だとする批判も受ける。
- 「マエストロ」の称号は、特に彼の在任中の経済政策に対する影響力と、市場と政策決定者の間で築いた信頼関係を象徴するものとして記憶される
「・・・我々は疑念を持っていたにもかかわらず、バブルを確実に特定することは、その存在を確認するバブルの破裂後でなければ非常に困難であることを認識した」→はじけてみないとそれがバブルだったのかどうかわからない」との言葉を残す。
ベン・バーナンキ(Ben Bernanke/2006年-2014年)
- 世界金融危機勃発時にFRB議長を務め、大規模な金融緩和政策を導入。
- 2000年代後半の金融危機とその後の大不況への対応で手腕を発揮。
- この期間にFRBは前例のない措置を取り、量的緩和を実施。
- FRBが数千億ドルの住宅ローン担保証券と長期国債を購入し、経済成長を促進するプロセスを試みる
- バーナンキの指導の下、FRBは透明性を高め、四半期ごとの記者会見を開催して連邦公開市場委員会の決定を説明
- 短期金利に関する前向きなガイダンスを提供し、2%の正式なインフレ目標を採用。
- 金融システムの崩壊を回避するために積極的な措置を講じ、景気の安定化に尽力。
- ノーベル経済学賞を2022年10月に受賞
ジャネット・イエレン(Janet Yellen/2014年-2018年)
- 初の女性FRB議長として歴史に名を刻み、マクロ経済政策の先駆者となる。
- 低インフレと雇用の改善を目指し、穏健な金融政策を展開。
- イエレン・ダッシュボードと呼ばれる、労働参加率など独自の9つの雇用関連指標を講演、会見等で使い、話題に。
- 夫はノーベル経済学賞受賞のジョージ・アカロフ
- バイデン政権で初の女性財務長官も務める(2021年1月~)
ジェローム・パウエル(Jerome Powell/2018年-現在)
- 弁護士、ウォール街、投資ファンドの共同経営者、FRB理事をへて、議長職へ
- 歴代4人の議長が持つエコノミスト、経済学者の肩書がない、議長として当初不安視される。
- COVID-19パンデミックに対応するため、大胆な金融緩和政策を導入。
- 経済の回復を支援するために必要な政策を迅速に実施し、市場の安定化に貢献。
まとめ
今後のデータとリスクしだい
5月のFOMCでも政策金利の据え置きとすることは、今のところ、市場予想とFRBの予測は一致しているようです。パウル議長の言葉を借りれば、「新たに入ってくるデータとリスクを継続的に評価するし、今後の会合について本当に何も決めていない」、その通りだと思います。
歴代のFRB議長に共通して言えることは、どの議長もマーケットとの対話に長けていてタイムリーな政策等、危機の際のフットワークが見事なことです。それは、米国株式市場のここまでの堅調な上昇が物語っています。
何が起こるか分からないのが経済、金融、マーケットですので目先のことに振り回されずに、じっくりと腰をすえて、情報発信をしていきたいと思います。
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